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BLOGOS 2011年12月02日 04:03
http://blogos.com/article/25917/
米国の台湾放棄は、アジアの核開発競争につながる
米国の外交戦略の基本はオフショア・バランシングです。
ただ、ここ最近は悪化する財政事情と相俟って、孤立主義的または宥和主義的主張も少なくありません。
米国内からはともすればユーラシア大陸への深い関与を嫌がり、アジアからの撤退論が沸き起こります。
その主旨は、
「米国が日本などとの同盟を破棄し、基地を捨て、アジアから水平線の向こうに去れば、中国を刺激することはなくなる」、
というものですね。
本稿では、
「米経済のために台湾を中国へ売り払ってしまえ」
というニューヨーク・タイムズの論評記事を紹介します。
実際に米国がこのような選択をすれば、米国は多くのものを失うでしょう。
中でも、米国の同盟国に対するコミットメント放棄は、アジアや欧州に限らず世界中で米国の信頼低下を招き、もはや取り戻すことは困難となります。
そして、米国が去って生まれたパワーの空白は、必ず別のパワーによって埋められます。
おそらく、アジアにおけるその別のパワーとは中国ですね。
こうしたパワーポリティクスをある程度普遍的原則とするか、それとも固陋な冷戦思考とみなすかで立場は変わるのでしょうが、米国内でも両者の相克は続いています。
◇ ◇ ◇
先月、元ハーバード大学研究員のポール・ケイン氏が、
「1兆1400億ドルの負債と引き換えに台湾を中国へ売り払え」
という寄稿をしました。
「
To Save Our Economy, Ditch Taiwan (ニューヨーク・タイムズ)
米国は2015年までに台湾への武器供与をやめ、米台間の防衛協定を破棄すべきである。
たった一度そう決断するだけで、オバマ大統領は米国の方向性(country's course)を修正できるだけでなく、来年の再選をも保証し、子供たちの未来を守ることができる。
米国は台湾になんら戦略的利益を有していない。あの島が中国本土へ吸収されるのは不可避なのだ。
」
なんだかいろいろと前提条件が間違っています。
例えば、多くの米国民は米台中関係について疎く、関心も薄いために、大統領選の争点になどなり得ません。
加えて、
「米国は台湾を守る」
という姿勢が、国際社会における米国の戦略的価値につながっているということを理解した上での議論だとは思えません。
そもそも、台湾は米国の領土ではありません。
米国が武器供与をやめ、台湾関係法を白紙にしたとしても、台湾の将来を決めるのは、台湾です。
米国が誰かにあげるだのあげないだのと言う問題ではないのです。
当然、ケイン氏の記事にはいくつかつっこみが入りましたが、ここでは2つ取り上げたいと思います。
まず、清華大学のパトリック・チョバネク(Patrick Chovanec)准教授がケイン氏の提案に対して財政面から不備を指摘しています。
「
Should We Sell Taiwan?
台湾と引き換えに債務を帳消しにするというのは、何か魅力的なように聞こえる。
しかし、中国の保有する3兆2000億ドルの外貨準備高はすでに中国国内で「人民元」となって流通しており、これを台湾と引き換えに米国へ譲ることは簡単ではない。
国内資産のキャリングコストをカバーするために、米国債と同価値のものへ投資したり国内の税金や政府借入金をつぎ込まなければならないからだ。
結局、中国は1兆1400億ドルの米国債を米国に譲り渡す過程において莫大な負債を抱えることになり、このような取引が成立するはずがない。
台湾の資産が穴埋めになるという人がいるかもしれないが、それは台湾の資産であって、米中間の取引において中国のバランスシートにはなんの足しにもならない。
」
次に、米太平洋軍顧問のデビッド・ミラー(David Miller)氏もケイン氏の意見を否定します。
「
Why You Should Care About Taiwan (Huffington Post)
米国が金と引き換えに台湾を売り払うのならば、なぜ韓国や日本を売らないのだ?
敵対的な隣国のそばにある先進技術を持った小国が、ある日突然米国との防衛協定に信頼を置けなくなったらどうすると思う?
私なら、「核兵器を造る」。
たくさん、それも早くだ。
そして、隣国が次々に核開発を始めれば、残された国はどうする?
当然その国も核武装しようとするだろう。
APECは貿易や為替についてではなく、核汚染や核軍縮についての協議の場となるだろう。
ケイン氏の言うような明るい未来など訪れるどころではない。
また、台湾を売り払ってしまえば、米国はもはや「特別な(exceptional)国」ではなくなる。
アフガンやイラクで唱えた自由や民主主義を諦めるなら、米国の魂(our soul)は失われるだろう。
もし台湾の人々が自らの選択として中国との統合を望むのであれば、私はそれを受け入れる。
しかし、米国にとって都合が悪いからと言って台湾を中国へ売り飛ばすような真似は、我々の国家としての基本的な価値への裏切りだ。
我々 ―米国人― の歴史は、覇権大国による抑圧と脅威を拒否するところから始まった。
米国人として、太平洋の小さな島が我々にとってどのような価値を持つのかということについて議論をする前に、そのことを見つめ直すべきだ。
」
◇ ◇ ◇
対中宥和論が後を絶たない一方で、必ず厳しい反論がなされるのも米国らしいところです。
今回も、激烈に論駁されていますね。
なにより、現在のホワイトハウスの政策責任者たちは孤立主義的オフショア・バランシングを否定しています。
米国の外交と防衛のトップであるパネッタ、クリントン両長官は、
「米国国内の経済的繁栄と安全保障にとって、国外での活動は不可欠だ」
と明言しています。
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この発言はアドバルーンにすぎない。
何度も書くが、アメリカの大統領選挙というのは軍需産業からの資金で成り立っているようなもの。
よって、選ばれた大統領は戦争をしなければいけないという責務を負っている。
大統領選挙を土曜日か日曜日にやるならアメリカ国民の意見というものに注意を払わねばならない。
何しろ国民一人一人に一票の権利があるのだから。
でもスーパーチューズデイ(火曜日選挙)なら貧しい庶民は選挙に行かない。
よって、お金持ちだけの選挙になる。
そのスーパーチューズデイを支えて土曜日選挙にさせないようにしているのが軍需産業のロビー。
そうやって選ばれた大統領は端から軍需産業に借りを作っていることになる。
これはどうにかしてかえさねばならない。
台湾を中国に渡すなどとんでもないこと。
何も質の高い戦争の火種を消すなんてことは絶対やってはならないことなのだ。
中国をジワジワ締め上げて向こうから手を出させる。
手を出したら、大げさに負ける。
それからじっくりと軍需産業をフル操業させて、選挙の借金をかえすようにする。
そして、アメリカは短期間で効率よく叩き中国をギブアップさせる。
戦後交渉ではまずアメリカの借金を棒引きにさせる。
こんな軍需産業に借りをかえし、さらには
中国からの借金をチャラにするというヨダレの出るような手がある
のに、何も台湾を差し出すことなど、チリにもないはずである。
それより台湾と中国間を刺激したほうが、アメリカにとって優位に展開できるはずである。
この程度のこと、ちょっと冷静に考えればわかること。
それなのになぜ上のような、理屈の通りにくい説をぶちあげたのか。
これはあくまでも風向き観測のアドバルーンだということ。
様子見の第一弾といったところか。
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