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JP Press 2011.12.06(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/31372
中国から外貨が流出し始めた
外国人投資家も景気の先行きを悲観
中国の景気が減速している。
第4四半期の成長率は8%を割る可能性が出てきた。
その原因は、欧米諸国の信用危機による外需の低迷に加え、住宅バブルの過熱を防ぐ引き締め政策によって、中小企業を中心に深刻な資金難に見舞われたことがある。
しかし、ここで少々金融緩和の方向へ方針転換しても、資金が中小企業に流れる保証はない。
逆に住宅バブルはさらに膨張する可能性が高い。
そのため、中国の政策当局はまったく身動きが取れなくなっている。
次期首相と有望視されている李克強副首相は、住宅バブルのコントロール政策を今後も続けると、繰り返して強調している。
住宅バブルのコントロールは確かに大切だが、景気減速が長期化することは決して容認できることではない。
なぜならば、景気減速が長期化すれば、雇用情勢が難しくなり、深刻な社会問題に発展する恐れがあるからだ。
■政権交代を控える中国社会の政治リスク
8年間続いた胡錦濤・温家宝政権はあと1年ぐらいで交代することとなっている。
厳しい雇用情勢と社会の不安定化は、共産党への求心力を弱めることになる。
特に政権交代の時期には、それが深刻な政治リスクに発展する恐れがある。
スムーズな政権交代を実現するには、減速感が強まる景気を下支えしなければならないのだ。
ただし、有効な処方箋は見つからない。
中国経済のファンダメンタルズからすれば、ここで金融緩和を実施すれば、景気は一気に良くなるはずだ。
だが、一時的な好景気を作っても、さらに膨張したバブルが崩壊した時に中国経済がハードランディングして、さらなる景気後退がもたらされることになる。
まったく身動きが取れない状況下で、主要都市の政府は景気が悪くないと
「粉飾」するために様々な手
を打っている。
例えば、その傘下にある国有企業に対して、従業員のボーナスを前倒しして支給するように求めている。
こうした措置により、統計上は「所得」の伸びが大きくなるように見える。
もちろん、こうした措置は実際の景気を改善することにはならない。
それよりも、景気減速に対して打つ手がないことが露呈し、市場では景気悪化に対する観測がいっそう強まる恐れがある。
そういった意味ではまさに愚策と言わざるを得ない。
■内需が落ち込んでいる理由
中国経済の最大の問題点は、
任期が残り1年に迫った温家宝首相が思い切った改革を実行せず、解決しなければならない問題を先送りしていることだ。
その言い訳として、
「景気が減速しているのは政策の失敗によるものではなく、欧米を中心とする信用危機によるものだ」
というのがある。
確かに、外需に依存する中国経済は信用危機の影響を受けている。
しかし、なぜ内需が落ち込んでいるのかについての説明がない。
住宅バブルをコントロールする引き締め政策は、過剰と言われるほどの流動性を中央銀行と商業銀行の金庫に閉じ込め、その結果、中小企業を中心に深刻な資金難に陥らせている。
それに加えてインフレが再燃しており、家計の実質所得がその分、目減りしている。
さらに、政府が国有商業銀行を保護するために金利規制を続け、銀行にとっての利ザヤを確保するため、家計にとっての預金金利を低く抑えている。
そのため、預金者にとっての実質的な預金金利はマイナスが続いている。
このような経済構造上の歪みこそ内需振興の邪魔になっている。
■短期的な収益だけを狙っていた外国人投資家
経済は生き物である。
景気の先行きを期待する市場マインドは、需要と供給の大きな流れを作り出すことになる。
中国経済についてもまったく同じことが言える。
中国では資本取引規制が撤廃されていないにもかかわらず、中国の好景気を背景に、巨額の投機目的のホットマネーが中国に流れ込んだ。
外国人投資家が中国の景気の先行きを比較的楽観視しているのに対して、中国人は総じて悲観的なようだ。
その結果、外国人投資家は外貨を中国に持ち込んで積極的に投資を行ってきたが、中国人は消費を控えている。
なぜ外国人は中国の景気を楽観視するのだろうか。
答えは簡単である。
投機目的の外国資本は中国への長期的な投資を考えておらず、
短期的に大きな収益を得るのが狙いだからだ。
一方、中国人は自国経済の先行きに悲観的である。
その原因の1つは、多くの中国人が成長のメリットを享受していないことにある。
統計上の経済成長と、一般家庭の生活レベルの改善が大きく乖離していることが、悲観論が漂う一番の背景かもしれない。
■外国の投資家も悲観的になってきた
実は、ここに来て1つ大きな心配が出てきた。
外国の投資家も中国経済の先行きを心配するようになったことである。
人民銀行(中央銀行)の発表によると、2011年10月の為替介入に伴い、金融市場に投入した人民元のストックは249億元ほど減少した(図参照)。それは中国から40億ドルほどの外貨が海外へ流出したことを意味している。
これは中国政府にとって深刻な事態である。
資本規制を続けている中で外貨の流出が簡単に起きていることはもちろん心配だが、大規模なキャピタルフライトの前兆かどうかについても、大きな心配だ。
人民銀行の発表で明らかになったのは、通貨当局が把握している外貨の流出分だけである。
それ以外に、約1800億元相当の外貨(約300億ドル)が流出したとも言われている(中国国際金融有限公司)。
なぜ外貨が海外へ逃避しているのか。
その背景として、外国の投資家が中国経済の先行きに対して悲観的になっていることが挙げられる。
香港で取引されている人民元先渡し市場(NDF)の人民元レートも、9月以降、軟調が続いている。
もちろん、ここで中国の景気がハードランディングし、これから外貨が大挙して海外へ逃避し、中国発の通貨危機に突入するとは考えにくい。
3兆ドルを超える外貨準備、30%に上る家計の貯蓄率、9%の経済成長率といったファンダメンタルズから考えれば、中国経済が危機に見舞われる可能性は低いだろう。
だが、数百億ドルないし数千億ドルの外貨が中国から流出すると、中国にとっては大きな問題にならないかもしれないが、世界の金融市場、とりわけ東アジア域内にとっては大きなインパクトとなる。
世界経済は基本的に中国頼みの構図になっている。
ここで中国経済の先行きが危うくなれば、世界経済の雲行きがさらにおかしくなることは間違いない。
また、どの中国から逃げた巨額の外貨は行き場を失い、
どのような結末をもたらすかについて予測不可能である。
こうした世界経済にとっての不確実性をコントロールするために、関係国による金融協力の強化が求められている。
柯 隆:プロフィール
柯 隆 Ka Ryu
富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。
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